脳の中のマリー

二本の指を剣にして

by yajul

今朝は3つの夢を見た。
そのうち、俺が覚えているのは最後の一つ。
その夢について、書いておこう。


俺の母校である小学校と中学校は、隣り合っている。
俺が小学生だった時、中学校が建った。
ここは通学路だ。ここを通って学校に行った。ここは通学路。勝手知ったる通学路である。

俺は俺のままで歩いている。
中学校を卒業するまでと同じくらいの年月を卒業してから過ごした、俺の肉体でもって歩いている。
意識も鮮明。何も臆することはない。思春期時代を超えるパワーを身に着けた俺のボディが、優越感をもってかつての通学路を進んでいく。
小学校のグラウンドの脇を通り過ぎ、中学校の正門に近づく。ここで左に曲がると友人の家だ。彼は実家の近くに家を買い、そこに今も住んでいる。

事件は…

まだ起こらない。

ひたすら懐かしい光景が見えるばかりだ。

俺はどこまで歩いていくのだろう。
これは夢であるとわかっているような、わかっていないような、奇妙でだがよくある夢の感覚だ。自分の行動をコントロールできているようでできていない。しかし、その行動は「俺の行動」として納得がいく場合が多い。状況は理不尽であったとしても。

夢である以上、どこかに理不尽なことがあるはずだと思い、俺は周囲を見回す。上、下、左、右。
何もない。後ろを見てみても、道路に倒れた少女が車の後輪にひき潰されているばかりだ。道路に倒れる少女を、車はよけようとしたらしい。そして見事、前輪はよけた。しかし前輪をかわしたすぐ後にハンドルを元に戻したので、少女は後輪につぶされることになったというわけだ。胸のあたりをゆっくりとタイヤが乗り越える。さほどでもない光景だ。

車が走り去った後も、少女は動かない。それはそうだ。轢かれたのなら、ただでは済まない。極めて常識的な夢の中で、俺は少女に近づく。何をしようとするのか?それはもちろん、常識的に安否を確認し、救急車を呼ぶのだ。

少女は生きていた。胸のあたりにタイヤの跡がついている。肋骨は折れているだろう。苦しそうだ。ジバニャン状態である。ゆっくりと轢かれたせいか、大事には至ってなさそうだ。近くにいた女性が助けに駆け寄る。俺は少女を彼女に任せ、救急車を呼ぶことにした。


「救急ですか?消防ですか?」

「救急です」

「はぁ…」

「女性が車に轢かれたので、救急車の手配を願います」

「へぇ…」

「場所は、○○小学校の

「はぁい」

「大丈夫ですか?」

「へぇ~~~!!!!!!!!」

救急車は来るようだ。

救急車が来るまでの間、俺と女性は少女を介抱することにした。
介抱するといっても、救急医療の知識はない。
俺にできることといえば…何だろう。
何もない。

何もないので、救急車を待つほかにない。

周囲に人だかりができ始めたので、俺は彼女を連れて車内に入った。
ハイエースのような広さだ。
人だかりはずっとこちらを見ている。
ずっと見ている。
物音をたてずに。
なかなかのマナーだぜ。

車内で俺は彼女を膝の上に乗せている。
…正直なところ、「これはこれでうまい状況だな」と思った。あぁ、認めよう。俺は、思った。思わずにいられようか。
しかし相手は怪我人だし、これから救急車も来るし、車外からは行儀のよい凝視が注がれている。何が起こるはずもない。少女も動かないし、声も出さない。暖かいので、生きていることは確かだ。このまま救急車を待てば、すべてうまくいくだろう。

しかし救急車は来なかった。

夕暮れを過ぎ、夜になっても、来なかった。

ちゃんと来てくれると言っていたのに。

これはもう仕方がない。

少女を直接病院に送り届けるしかないだろう。

しかし車がない。彼女を寝かせたまま運ぶことができる車が必要だ。広い空間の。大きな車が。
人だかりは相変わらず黙然と見つめるばかりで助けになりそうにない。ええい、車を持っている奴はいないのか。そろそろ寒くなってきた。何とか状況を打開しなければならない。

そこへ、友人が車を駆って駆けつけてくれた。

さすがは俺の友人!顔も名前もわからぬその友人に感謝する。彼が車のトランクを開ける。
車のトランクはとても狭い。人間を入れるならぎゅうぎゅうに押し込めるしかあるまい。
俺と少女は車から降りて、友人のトランクへ向かった。
少女を押し込める。
これで安心だ。
俺は助手席に乗り込み、どこに行くのかは知らないが車は発進した。

車は驚異的な遅さで夜道を行く。
あくまでも小学生の歩行速度を厳守しつつ、恐るべき速さで歯医者へ向かう。
あっという間に10m進み、俺は勝利を確信した。
救急車でなく、最初から車を使っていればよかったのだ。

そこへ、俺の携帯に着信来る。

救急からだ。

あぁ、そういえば、友人の車に乗っていくと伝えていなかったな。行き違いになったら申し訳ない。先に連絡をしておくべきだった。

反省しつつ通話ボタンを押す。
かけてきたのはさっきの人だ。

「あぁもしもし、すみません」

「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」

「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「てめぇはよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ」

「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」

「いいいいいいいいいいいいいいいいいいひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

で、そこで俺の夢は終わりだ。

正直なところ、電話の声を正確に覚えているわけじゃない。

ダイレクトに響く呪詛だけを認識した感じだ。

脳にガンガン響く恐るべき罵倒。

途中まではよかったのに。いったい何なんだあれは。

朝5時30分、まだ真っ暗な部屋のなかで、
俺は寝返りも打てない恐怖の中で目覚めてしまった。

どうするんだよこれは。

…方法は一つだ。

俺は神主の息子である友人に教わった、
「己の2本の指を剣と見立て、臓腑から絞り出す声でもって斬りつける」
という、怖いことがあったら必ず行う恒例のアレをやってみた。

そして二度寝に入る前に、俺は気づいた。

肩まで布団かけないと眠れないんだが、布団が顔にかかるまで来ると悪夢を見るんだよなぁ。

難儀だぜ。

このエントリーをはてなブックマークに追加 LINE it!