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孫子の兵法の使い方

by yajul

孫子の兵法。
2500年前の中国に成立した稀代の名著。
古今あらゆる組織運営の指南書であり、極めて合理的な理論体系であり、その価値は無限。

と、まぁ、いくらでもかっこよく語ることができる書なんだけれども。
現代では特に企業運営の虎の巻として(この「虎の巻」は別の兵法書が語源だ)、書店のビジネスコーナーなんかをめぐるとそこかしこに見ることができるね。漫画で読んだり、わかりやすい図解であったり、硬派な装丁がしてあって所有欲を満たしてくれたりする。
孫子はすごい。
孫子の兵法やばい

しかし、それら「孫子モノ」の本に欠けているものがある。
それは、「で、結局、日常生活でどうやって使うの?」という疑問だ。
いや、もちろん俺は孫子の兵法に関する本を全部読んだわけじゃないのだが…
パッと目についた孫子モノはとりあえずパラパラと見てみるんだけど、この疑問に答えている本はなかった。

大体の孫子本は、元の孫子の兵法に書いてある順番にしたがって、
「ここはこういう意味ですよ。現実社会だとこういう例がありますね」というスタイルで書かれている。
確かに、すごくわかる。
わかりやすい。
見事な解説がされている。
どのページを見ても「あるある」「それよ」「まさに」と、2500年前の叡智に感嘆することしきりだ。

だが…

それで、どうやって使うの!?
という疑問は残る!
一番大事なところが!
俺達の如き凡才には!
そこが最も必要なのに!

そんな疑問にまみれながら日々孫子本を眺めていたんだけど、あるとき、霧が晴れ渡るかのように理解できた。
どうでもいいんだけど、「五里霧中」は「五里霧」という術の名前が語源なんだよな。
だから「五里」が「霧中」なんじゃなくて「五里霧」という術の「中」という区切りなんだぜ。
…脱線したが、ちょうど同じ中国古典の「易経」を読んでいるときに、孫子の兵法の読み方に気がついた。

つまり易経も孫子も、まずは「自分がどの状態にいるのか」を明確にすれば、自ずと「使う」ことができるようになる
まさに「己を知る」ことが重要で、それをせずに「ふーん、へー、ほー」と読んでも身につかない!

なので――

とりあえず、「九変篇」と、「九地篇」から読もう!
むしろこれ以外は最初は無視したほうがいい!
謀攻篇とか、虚実篇とか…かっこ良すぎる章があってついつい「フフフ…」と不敵な笑みを浮かべながら読みたい衝動に駆られるが!
まずは九変、九地!これでOKよ!

なぜかというと、この二編は他の章と比べ、明確な一問一答になっているからだ。
そして、「あなたがこういう状況にいるときは、こうしなさい」と、きっちり方向性を指し示してくれている章でもある。
他の章は、「こういう法則がある」という書き方なので、「じゃあどうやってその法則に当てはめるの!?」と混乱してしまう。
この2つの「九」は、敵の動きや自分の部下の活かし方でなく、まさしく「俺」、「これを読んでいるお前」に向けられたものだ。
「失敗するのはこういう時、こういう時、こういう時だ。で、お前は今どの状態だ?」と訪ねてくれるのがこの二編だ。
なので、まずはこの二編から入り、「自分は今どういう状態だろう?」と自身に問い、「俺はこういう状況か…ならどうすればいいんだろう?」と孫子を開く、としたほうがわかりやすい。
これは仕事や戦術の話だけでなく、恋愛でもなんでもいい。占い感覚でやってもいいくらいだ。
慣れてきたら、他の篇も読んで見る、というくらいのスタンスでやったほうが身につきやすい。

もちろん、孫子は兵法書であるので、すべて軍隊の動きで説明されている。
だから、現代の読み手である俺達には、「日常に当てはめたらこうなるな」と読み替えるセンスは必要となるだろう。
とはいえ、そんなに難しい物じゃない。想像力でもってこの2500年前の巨人と対峙していこう。

例として、「九変篇」の最初に出てくる、「圮地(ひち」について読んでみよう。
「圮地には宿る事なかれ」
とある。…たったこれだけなんだけどな!
圮地、というのは、沼地だとか森の中とか、身動きの採れない地形のことをいう。
どんな孫子本でも、こういう解説はしてくれているので大丈夫だ。
で、この圮地を現実に当てはめると…
自分以外味方がいない状態だとか、様々な理由で身動きが採れない状態だとか、
会社と恋人の間で板挟みだとか、二股してるんだけどどっちを選べばいいかわからんとか、
とにかくそういう、「どんづまり全般」の状態のことだ。
今自分の悩みが精神的に物理的に「どんづまっている」ものであるとすれば…
「とにかく早く脱出しないとマズイぜ」と孫子はいうわけだ。
さらに、この孫子に対して、三国志の曹操はこういう解説を書いている。
「要するに袋のネズ状態だ。そんな状況で安心して休めるはずもない。おまけに、一発で全滅してしまう危険性もあるぞ」
さすが曹操さん!わかりやすい!

このように、「今の自分の状態」をつぶさに分解し、孫子の兵法に当てはめていくことで、解決策が見えてくる。
「どんづまってる状態は確かに動けないが、かといって動かずにいるとヤバイぜ」
…当たり前じゃねえか!と思うかもしれないが、「当たり前」として漠然と知っているのと、「今この状況の打開策」として検討するのでは天と地の差がある。
孫子の兵法というのは、つまりそういう書なのだ。
真面目に自分の状態を観察し、打開策を練る。
己を知る人間に、敵を知る方策を授ける。

すなわち、百戦危うからず、なのだぜ。




yajul
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